お金儲け最優先の組織運営だと「組織作り」「人育て」ができません。そういう組織のトップは、持っているモノを守るのに必死で、楽しそうには見えません。
嘘も平気でつくし、仲間を売ることもあるし、「記憶にございません」ごまかすし。そう言っている人の顔、幸せそうに見えないのです。
では、みんなが幸せになる組織作り、人育てとは?
今回紹介する「人育ての書」ですが、古いものもあります。多分図書館にもあります。機会があれば読んでみてください。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012)

サーバント(servant) は日本語で「奴隷」。ここでは「奉仕者」という意味で使われています。身も心も奴隷になれ、すべてに奉仕せよ、とすすめている本ではありません。
この本のあらすじ
傍若無人な主人公が、修道院で行われるプログラムに押し込まれます。一週間のプログラム、講師が伝説の経営者(今は修道士)。
主人公は講師から「仕事に関するアイデア」をもらおうとしました。しかし、人としての在り方を見直さなければ、と気付くのです。
人は導くもの 管理するものではない
「よく気が付きましたね、リー。マネジメントは、人間にたいしてすることじゃない。目録や小切手帳や資産を管理したり、自分自身を管理することはある。でも人は管理しない。人のことは先導(リード)するんです」
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p34
2020年以降、コロナ禍でテレワークが普及しました。「カメラを常にONにするように強要する」「分単位で詳しく日報を書くよう指示する」こんな上司の指示が問題視されました。
たぶん、もっとひどい業務命令を受けた方もいるでしょうね。
今は「カメラを常にON」はないと思います。その代わり、定期的に写真を撮影して上司に送る「監視ツール」があるそうです…
管理する対象は「仕事」であり、「人」ではありません。
人を管理しようと努力しても、された側にしたらたまりません。信用されていないんだな、と余計反発するだけです。
では、「導いている」と思われるために必要なことは何でしょう。
権威と権力は違う

権力:たとえ相手がそうしたがらなくても、地位や力によって、自分の意思通りのことを強制的にやらせる能力。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p36
こういう人、いますね~。「移動があるかも」「査定に響くぞ」「昇進に影響があるかもね」…これは立派なパワハラ。強制的にやらせる行為=「欲望を満たす」行為です。
権威:個人の影響力によって、自分の意思通りのことを誰かに進んでやらせる技能
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p35
その心には一点の曇りもありません。辛くても苦しくても、しなければいけないことがあります。進んでやる行為=「ニーズに応える」行為です。
奴隷は他者の欲求を満たすのにたいし、奉仕者は他者のニーズに応えます。欲求を満たすのとニーズに応えるのとでは、大きなちがいがあります。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p75
「たとえば、親が子どもたちをやりたい放題にさせたとします。子どもたちは走り回って、それこそ混乱状態になるでしょう。彼らの欲求どおりにさせることは、彼らのニーズに応えるのとは違います。子どもと大人には、境界線のある環境、基準があって責任を問われる場所が必要です。境界線や責任なんて欲しくないかもしれませんが、必要なのです。無規律な家や職場は誰のためにもなりません。リーダーは、並のレベルや次善の策に甘んじるべきではありません。できるかぎり最高のレベルに人を押し上げる必要があるのです。人はそれを望まないかもしれませんが、リーダーは常に、欲求よりもニーズを考えているべきです」
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p75
ニーズに応えさせるためには、まず、リーダーが「できるかぎり最高のレベル」を具体的に知る必要があります。それが、リーダーシップ(リーダーとしての能力)なのです。
隣人を愛せよ、の「愛」とは?

日本語でも「愛」というのは感情と関わっている、と受け止められます。しかし、
新約聖書は大半がもとはギリシャ語で書かれている
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p109
そうです。ギリシャ語の「愛」には4つの意味があります。
ひとつがエロスで、性的魅力や欲望、切望といった感情を意味します。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p109
もうひとつがストルゲ、これはとくに家族の間の愛情をさします。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p109
三つ目はフィロス、これは親密な相互の愛のことです。”あなたがわたしに親切にしてくれたら、わたしもあなたに親切にしましょう”というような、条件付きの愛ですね。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p109
そして最後に、名詞ならアガペ、動詞だとアガパオという言葉があって、これは見返りを考えない、他人への行為の基になる無条件の愛を表現します。イエスが新約聖書で愛を語るときに使っているのは、このアガペという単語です。つまり、イエスのいう愛とは、感情の愛ではなく、行為と選択の愛なのです。
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p109
行為で示す「無条件の愛」が、リーダーシップには必要なのです。
これを簡潔に表現している文を見つけました。

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟 [ 飯田結太 ]
今ならはっきりと言えます。大切に思うことと、大切にすることは全く違うのです。やるべきは「大切な人が大切にしていることを大切にする」という行動なのです。
浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟 飯田結太 プレジデント社(2021) p86
これはサーバント・リーダーからの引用
「男たちが、バーでほかの女を追いかけておきながら、どんなに妻のことを愛しているか話すのをおれはさんざん聞いてきた。どれほど子どもたちを愛しているかをだらだら話し続けるのに、子どものために15分の時間さえ割いてやらない親も多い。言葉で言ったり感じたりするだけでは、ほんとうにそうだということにはならないんだな?」
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p110
聖書にはこうあります。
愛は忍耐強く、愛は優しい
コリント人への第一の手紙 13章
みんなが成長できる環境をつくる

たくわんを作るために大根を育てたいとき、4月に種をまく人はいません。漬物は冬の保存食です。大根を寒くて乾いた風で干さなければいけません。だから、夏の終わりや秋の始まりぐらいに種をまきます。
けれども、大根菜として食べたい、本格的に暑くなる前にみずみずしい大根を出荷したい時は、春先に種をまきます。
人育ても同じです。
個性があり、生きる目的があります。お互いに行為としての愛をもって、相手の成長を待たなければいけません。
「残念なことに、私は実が育つ前にしびれをきらして努力をやめてしまったリーダーをたくさん知っています。多くの人が早く結果を欲しがり、期待しますが、実は準備ができた時に初めてなるのです。だからこそ、リーダーには献身がとても重要になってくる。雪が降る前に収穫したいと思った時、晩秋に作物を植える農民がいますか?実りの掟は、実は育つだろうけれど、その成長がいつ起こるかはわからないことを教えてくれます」
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p151
そして、しびれをきらして努力をやめてしまったリーダーにも愛と敬意をもって接しなさい、と言っています。
部下が上司を育てるのです。
しかし、「こいつはダメだ」と見切りをつけて移動願を出す自由、「この組織は自分には合わない」と退職する自由もあります。自分をリード、マネジメントできるのは自分だけですから。
ただ、全責任は自分にあります。その後どうするのか、だれにも頼らず、計画を練って実行する力が必要です。
「でも、シメオン。リーダーなら、みんなを変わるように誘導できるんじゃないか?」
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p161
「わたしの言う誘導とは、選択に影響を与えるあらゆるコミュニケーションのことです。リーダーとして、必要な刺激を生み出すことはできるかもしれませんが、人は必ず自ら選択して変わらなければなりません。園芸の原理を思い出してください。わたしたちは成長を作り出すのではない。わたしたちにできるのは、正しい環境を提供し、人が変化し成長することを選択するよう、必要な刺激を与えることだけなのです」
サーバント・リーダー ジェームズ・ハンター著 海と月社(2012) p161
だから、愛は忍耐強く、愛は優しいのですね。
自分は何を選ぶか
いろいろな角度で人間関係を見た上で、自分は何を選択するのか。
「あなたは、まだ自分に指を向けていない」
浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟 飯田結太 プレジデント社(2021) p75
いつも、自分に指を向けて考えることが必要です。
人を動かす D・カーネギー著 創元社(1958)

これは「人間関係に関する勉強会用のいい教科書がないなぁ、では自分で書いてしまえ~」と、カーネギーが書き下ろした本です。
アメリカの古い本なので、よく分からないたとえ話が出てきます。けれども、とても分かりやすいので取り上げました。
人を動かす、その手法はいろいろ

「人の悪口は決していわず、長所をほめること」
人を動かす D・カーネギー著 創元社(1958) p19
子育てと一緒ですね。
人を批判したり、非難したり、小言をいったりすることは、どんな馬鹿者でもできる。そして、馬鹿者にかぎって、それをしたがるものだ。
人を動かす D・カーネギー著 創元社(1958) p19
ハイ。反省します。また、こんなコトも言っています。
人を動かす秘訣は、間違いなく、一つしかないのである。すなわち、みずから動きたくなる気持ちを起こさせることーーこれが、秘訣だ。
人を動かす D・カーネギー著 創元社(1958) p24
トイレでよく見る張り紙も一例です。
いつもきれいに使ってくださって ありがとうございます
「自己の重要感」を満たすことも大切です。
何年も前、デトロイトのある学校の女先生が、授業中に逃げた実験用のねずみを、スティーヴィー・モリスという少年に頼んで、探し出してもらった。この先生が、スティーヴィーにそれを頼んだのは、彼が、目は不自由だが、そのかわりに、すばらしく鋭敏な耳を天から与えられていることを知っていたからである。すばらしい耳の持ち主だと認められたのは、スティーヴィーとしては生まれて初めてのことだった。スティーヴィーの言によれば、実にその時-自分の持つ能力を先生が認めてくれたその時に、新しい人生が始まった。それ以来、彼は、天から与えられたすばらしい聴力を活かして、いついには「スティーヴィー・ワンダー」の名で、1970年代の有数のポップ・シンガー、ソングライターとなったのである
人を動かす D・カーネギー著 創元社(1958) p35
大事なことは「誠実」

人を動かすには、
相手の立場に立ち、望んでることをつかみ、正当に評価する。
人を動かす D・カーネギー著 創元社(1958)表紙より
誠実な心で接すれば、人は必ず心を開く。
相手が違えば「望み」「誠実」も違います。相手のニーズを探るには、自分で考えて、試すしかないと思います。
その具体例が「これでもかっ!」というぐらい書かれています。が、、、国と時代が違うので、どこまで参考になるかは疑問です。
それはちょっと、という方には次の本がおすすめです。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)

人生を全身全霊全力で突っ走った藤巻さん。真似はできませんが、お手本にはできます。
藤巻さんが言いたかったことも
- 愛
- 誠実
だと思います。その一例をあげますね。
捨て身の巻き込み術

新人の時、何度か連れていかれた新宿の高級バー。お客さんがすごい顔ぶれなので、対等に話ができません。そんな時は、徹底的に男芸者をやったそうです。
高級バーの客にはそんな三枚目はいません。そういう三枚目がいると場は明るくなるわけで、「元気な若者だなあ」と顔を覚えてくれたし、「君もどうぞ」とビールをついでくれることもある。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009) p41
そこで色々な人と顔見知りになったら、今度は「触媒役」を買って出ます。
有名人同士というのは、顔は知っていても、店では遠慮して距離を置くところがあるんです。それがマナーというのか、あるいは有名人というのは共通してシャイなところがあるのかもしれません。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009) p42
そこを、藤巻さんが間に入って半ば強引に名刺交換をさせてしまうのです。
同じステージにいる人というのは、いったん堰を切ってあげると、すごいスピードで接近しますね。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009) p42
もちろん、「この人たちは絶対合う」と確信があるから、引き合わせるのです。人を見るセンスも
- 愛
- 誠実
に裏付けられているのだと思います。
派遣やアルバイトにも「プロ」がいることを忘れるな
「プロ」とは「知識」「経験」の裏付けがある技を持つ人だと思うのです。それを表現する方法に「人格」が現れるのだと思います。
派遣、アルバイトにも本当に色んな方がいます。
こちらから姿勢を低くして溶け込んでいくと、言葉は乱暴だけど、親切にわかりやすく教えてくれるんです。巻き込み術?なんだろう?カッコよくいえば「平等意識」ってことですかね。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p71~72
自分に必要なことを教えてもらうのに、上下関係はない!藤巻さんは愛と誠実をもって、いろんな人を巻き込んで、知識を増やしたのです。
「福助」再生を任された

老舗企業「福助」の再建に乗り出した藤巻さん。ここでもフジマキ流を仕掛けます。
旧福助のそれは、伝統ある会社によく見受けられるように、縦に細長く連なる組織でした。だから、上の意思が下に伝わるのに時間がかかりすぎてしまう。フジマキは各部署に一人のトップがいて、その意思が一気に伝わるアメーバ型の組織が好ましいのではないかと考えました。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p185
組織を「クモ型」から「ヒトデ型」に変化させて、時代の流れに乗せようとしたのです。
一足の靴下には糸屋さんにはじまって紡績メーカー、染色メーカー、そして縫製メーカーと多くの業界の人が携わっています。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p186
「各社と個別対応」の伝統を破り、すべての業者を一か所に集めて打ち合わせをしました。社内からは猛反対に遭いましたが、とにかくやってみました。
すると思いがけないことが起きました。意思決定のスピード化がはかれたのはもちろんですが、実は、それぞれの業界の人が、他の業界の人に貴重なアドバイスをすることができたのです。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p187
みなさんに大好評。またやりましょう、という話になりました。
古くからの業者の中には、「こんなに盛り上がったのはいつ以来だろう」と、うっすら涙を浮かべる人さえいた。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p187
成功に向かう原動力は、こういう「人の想い」だと思います。藤巻さんの「愛」「誠実」です。人の想いがこれだけ詰まった会社が、再建できないわけがないのです。
失敗したら「秒殺」で謝る

- 間違いをすぐ認める。
- 素直に反省する。
- どうしたら良いか考える。
- できるだけ早く実行する。
【徹底比較】今とは違う!これからの社会で紹介した「これからの社会のありかた」藤巻さんも実践しています。
どうしようもないミスに気が付いたら、「秒殺」で謝るのが重要です。
「ゴメンなさい!すべて私の責任です」
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p182
「あたりまえだろ、おまえの責任に決まってる!ワケを言え、ワケを!」
「ハイ。モデルさんに見とれてました」
「なに~~!アホか、おまえは!」
相手が部下でも「できるだけ速攻」です。
正直なところ、部下に対してはなかなかアタマは下げにくいものですよね。カッコ悪すぎる……。でもね、部下の立場に立ってみれば、「ごめん」と謝る上司のほうが絶対にカッコいい。
藤巻流 実践・巻き込み術 藤巻 幸夫著 講談社(2009)p183
生きるために働くのだから
つらく、苦しい時が色々あります。けれども最後には、みんなで笑える人生がいいと思うのです。生きるために働いているのですから。
そのためには「愛」「誠実」が必要なのだと、三冊の本が示しています。
これからの組織づくりの参考にしてみてはいかがでしょうか?
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