色々な人の意見を聞いたうえで令和3年5月12日「みどりの食料システム戦略」が決まりました。
農薬減らしたり、有機農業増やしたり、とても環境を大切にしている「安心安全」食べもの政策に見えるのですが・・・あまり評判が良くないのですよ。何か裏がありそうな……。
そこで今回、その裏側を調べてみました。「物は言いようだなぁ…」と感じた結果をご紹介します。
そもそも「みどりの食料システム戦略」とは
目玉の政策が2つあります。
- 化学農薬、化学肥料を減らす。
- 耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%(100ha)に拡大する。
ひとつずつ、詳しく見てみますね。
化学農薬 化学肥料を減らす

2050年までに
- ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
- 輸入原料や化石原料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減
と書いてあります。
リスク換算って?
化学農薬の使用量(リスク換算)の「リスク換算」とは?分かりづらいですよね。令和3年5月21日 農業資材審議会農薬分科会(第 26 回)資料には

とあります。
- 有効成分
- リスク係数
を使って「リスク換算」を計算するそうです。これも分かりづらいので、ご説明しますね。
「有効成分」
農薬は「有効成分」と「補助成分」を混ぜて作ります。
たとえば、ラウンドアップ
- 有効成分:グリホサート
- 補助成分:界面活性剤など
このうち、有効成分の含有量に「リスク係数」をかけたものの総和を減らすと言っているのです。だから、化学農薬を減らす訳ではないのです。
ラウンドアップは「補助成分(POEA)も毒性が高い」と言われています。
それはラウンドアップの実際の有効成分は、主成分のグリホサートではなく、添加剤のPOEAだったことを意味している。ヒト培養細胞への曝露実験でもまったく同じ結果が出た。単純な濃度計算では、POEAの毒性は、グリホサートの約1000倍に及んだ。
抗生物質が効かない耐性菌の氾濫 食と健康を脅かす遺伝子組み換えと農薬の弊害 2021/10/25引用
補助成分の毒性を計算に入れるとは、どこにも書かれていません。これじゃ、化学農薬を減らしても、意味ないですよね?
「リスク係数」
「リスク係数」は「許容一日摂取量」を基準にするそうです。
許容一日摂取量(ADI) = 無毒性量 / 安全係数
無毒性量とは、ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて毒性試験を行ったとき、有害な影響が観察されなかった最大の投与量のことです。通常は、さまざまな動物試験で得られた個々の無毒性量の中で最も小さい値をその物質の無毒性量とし、1日当たり体重1㎏当たりの物質量(mg/kg 体重/日)で表されます。
厚生労働省 食品安全情報 より 2021/8/11
安全係数(Safety Factor)とは、ある物質について、許容一日摂取量(ADI)や耐容一日摂取量(TDI)等を設定する際、無毒性量に対して、さらに安全性を考慮するために用いる係数です。無毒性量を安全係数で割ることで許容一日摂取量や耐容一日摂取量を求めることができます。
厚生労働省 食品安全情報 より 2021/8/11
動物実験のデータを用いてヒトへの毒性を推定する場合、通常、動物とヒトとの種の差として「10倍」、さらにヒトとヒトとの間の個体差として「10倍」の安全率を見込み、それらをかけ合わせた「100倍」を安全係数として用いています。不確実係数(UF:Uncertainty Factor)ともいいます。
ちなみに、グリホサートの許容一日摂取量は「1mg/キログラム体重/日」です。
この、許容一日摂取量をもとに、農薬を3グループに分け、それぞれに係数を決めるようです。
農薬の有効成分の ADI 値は極めて小さい(0.001 mg/kg 体重/日未満)ものから、極めて大きい(1 mg/kg 体重/日以上)ものまであり、ADI 値をそのまま係数として換算した場合、極端な ADI 値が強く反映され、生産現場や農薬メーカーの取組を正しく評価できない恐れ。そのため、ADI 値に応じた「区分」に分け、係数を設定し、リスク換算に用いる。
令和3年5月 21 日 農業資材審議会農薬分科会(第 26 回)資料 より 2021/8/11
数字を丸めない方が、正しく評価できると思うのですが。
つまり、
- 農薬の有効成分だけを評価して「リスク換算」を丸めた新しい単位を作り、それを2020年比で50%減らします。
- そのために低リスク農薬を作ります。RNA農薬を作ります。
と言っているのです。
低リスク農薬をこれから作る?
「みどりの食料システム戦略 ~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~(本体)」に、こう書いてあります。
①地球の限界を意味する「プラネタリー・バウンダリー」は、9項目のうち、気候変動、植物多様性、土地利用変化、窒素・リン の4項目で境界をすでに超え、今後は、生態系の均衡が不可逆的に移行し、負の現象が連鎖的に起こるとされている。食料・農林水産業が利活用してきた土地や水、生活資源などのいわゆる「自然資本」の持続性にも大きな危機が迫っており、早急かつ大胆な取り組みが求められている
農林水産省 (2)SDGsと環境をめぐる課題と海外の動き より 2022/11/14引用
プラネタリーバウンダリーは全部で9項目あります。そのうち
- オゾン層の減少
- 海洋酸性化
- 取水
これらはまだ大丈夫と言われています。
- 大気汚染
- 化学物質汚染
これらは定量化できないので、空欄になっています。
しかし、裕福層を相手にしている「PICTEY(ピクテ)」という金融機関の冊子には
化学物質による汚染
出典:ピクテアセットマネジメント、ストックホルム・レジリエンス・センター 2021/8/13引用
プラネタリー・バウンダリーはいまだ定量されていませんが、汚染が進み過ぎたこと、また、健康に被害をもたらし、生態系を破壊する水準に達していることについては科学者の意見が一致しています。
と書かれていますよ。定量化したら、すでに超過しているかもしれません。それを知らないのは、我々庶民だけかも。
新しい化学物質を作ると、それだけ汚染物質が増えます。ですから、新しい農薬を作るのは、矛盾した行為なのです。
化学肥料を30%削減?
「家畜の糞尿や、人間の食べ残しをたい肥化」し、畑にまく化学肥料を30%削減するそうです。
日本人の食料、家畜のえさは大半が輸入品です。輸入先はアメリカ、オーストラリア、カナダなど。そこでたっぷり化学肥料を使っています。
特に家畜のえさ、濃厚飼料は大半が「ラウンドアップレディ作物」。化学肥料をたくさん使わないと育たない作物です。
食料を輸入している時点で、化学肥料をたくさん使っていますよ。ここを減らさないとグリーンウォッシュですよね。
今までの農業政策を見ても、「食糧自給率向上」は掛け声ばかりで、具体策が実現したことはありません。
それを、有機農業を拡大しながら、爆上げしていくらしいです……
有機農業の取り組み面積を100haに拡大
有機農法に関しては【食べ物と化学】有機農業や特別栽培農産物 で詳しくご紹介しました。有機JASの取り方等はこちらを参照ください。
「有機」と名乗れるのは「有機JASを取った農家だけ」なので、「有機JASを取得する農家を増やします」と言っているのです。
有機JAS取得には、複雑な手続きが必要です。とにかく「手間暇」「お金」がかかります。見方を変えると「役人の天下り先が増える」とも解釈できますよ。
有機農家さんの意見は反映されている?
現場の有機農家は、どう感じているのでしょう。「季刊地域 46号」に農家さんの話が載っています。
有機農家が抱く違和感
現場の有機農家さんは、この政策に違和感を抱いています。
「みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)」は、多くの有機農家にとって唐突に打ち上げられた政策という感が強い。みどり戦略が唐突に感じる理由は、官邸主導で急速に進められている点にある。
季刊地域 46号 農文協 発行 p70 耕し歌ふぁーむ 松平尚也さん の記事より
「みどりの食料システム戦略」の詳細を見ると
- 自動運転のトラクター
- 無人草刈り機
- ドローン農薬、肥料散布
……とにかく「デジタル化を進めて効率よく有機農業を」と言っています。
しかし、機械はとにかく高額。その機械は「広い農地」「単一作物」「一斉作付け」じゃないと効率よく動きません。一度に同じものができるので、スーパー、ファミリーレストランなど大量に買ってくれる大企業と契約しなければ経営が成り立ちません。
それに対し、有機栽培は、自然の力を利用するので「多品種栽培」「収穫時期バラバラ」。なので、大型農業は「有機では難しい」と言われていたのですよ。
さらに
戦略ではスマート育種システムやゲノム編集を重要な取り組みとして紹介している。
季刊地域 46号 農文協 発行 p72 耕し歌ふぁーむ 松平尚也さん の記事より
日本有機農業研究会(以下、日有研)はその提言(「『みどりの食料システム戦略』の『中間とりまとめ(案)』に対する意見と提言」21年4月12日)で自然の摂理に反するゲノム編集等の技術は、有機農業の理念・原則、および国際基準の有機生産等の基準(有機JAS規格に相当)に反するだけでなく、自然生態系や環境全般に悪影響を及ぼすため使用や実用化をやめるべきとした。
季刊地域 46号 農文協 発行 p72 耕し歌ふぁーむ 松平尚也さん の記事より
みどり戦略の中間とりまとめに対するパブリックコメント1万7千件のうちのじつに95%がゲノム編集と遺伝子組み換えについての意見だった。しかし策定された最終案では、ゲノム編集技術推進の立場が貫かれた。
季刊地域 46号 農文協 発行 p72 耕し歌ふぁーむ 松平尚也さん の記事より
ゲノム編集、遺伝子組み換えは自然の摂理に反するし、有機JAS規格の基準にも反するから反対とはっきり言ったのに、政策には全く反映されていません。
それどころか、ゲノム編集作物を有機に入れようという流れが世界中で出ています。その流れに「日本は乗ろうとしている?」そんな感じがするのです。
イノベーションで実現するか?
別な有機農家は、
日本のコメ作りは縄文時代晩期に始まったといわれ、3000年の歴史があることになる。この間にどのぐらいイノベーションが進んで、労働生産性、土地生産性が増加したか?労働生産性で考えると、3000年で数百倍ほどだ。
携帯電話が最初に開発されたとき、1台つくるのにかなりの時間を要したろうが、今は流れ作業で数百万倍だろうか。
農業と工業のイノベーションに格段の差があることが明白だ。工業製品と比べると、生命体を扱う農業では本質的にイノベーションは進みにくい。田植えをしている隣で、稲刈りはできないのだ。
季刊地域 46号 農文協 発行 p74~75 林 重孝さんの話
こう言っています。生き物は、工業製品ではないのです。「みどりの食料システム戦略」を作った人たちには、その視点が欠けています。
みどりの食料システム戦略 実はこんな政策
大変良い感じに響く「みどりの食料システム戦略」。とらえ方次第では、大企業が作った
- ゲノム編集種
- RNA農薬
- 自動運転システム
- 大規模農機具
を使った農業をするということ。儲かるのは大企業です。
また、開発するのに「化石燃料」「地下資源」をどれだけ使うのでしょう。「ゲノム編集」「RNA農薬」……分析室は「使い捨てプラスチック」だらけ。「自動運転システム」……人工衛星が数台必要です。
気候変動は「大量生産」「大量消費」「生物の工業化」が原因です。だから「これをやめる」のが、根本的解決法です。その視点が「みどりの食料システム戦略」にはありません。
つまり、「人が住めなくなる」といっているのに、まだ金儲けを考えているのが「日本政府」「大企業」で、それを推し進める政策が「みどりの食料システム戦略」なのです。
そしてこの戦略は、「ビルゲイツが乗っ取った」と言われる「食料システムサミット」のために作られています。
これを読むと、「日本の食料政策は、日本人のために作られていない」ということが、分かりますよ。ぜひ、ご一読ください。
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