地震はいつ来るかわかりません。けれども、歴史を振り返れば、ある程度予測がつきます。私たちは、歴史からたくさんのことを学べるのです。
引っ越し、進学、就職など、場所を選べるのなら、安全な所を選びませんか?そんなとき、この本がとても役立ちますよ。
磯田道史さんは古文書が大好き。あるときは寝食忘れて古文書を読みすぎ、「書庫のなかで倒れ、とうとう図書館から救急車で病院に搬送されてしまった(日本人の叡智 磯田道史著 新潮新書p9)」ほどです。
では、磯田さんは地震、地滑りなどの天災に関して、古文書からどういうことを読み解かれたのでしょうか。ここで一端をご紹介します。
自分のいる場所が安全なのか、そして、近所の大工場、原発、空港などは大丈夫なのか。考えるヒントにしてください。
地名をチェック
まず、有名なのは「土地の名前を確認しよう」。一般的にはこんなことが言われます。
「水」「沼」「沢」「田」がつく地名は注意
水、沼、沢、田など、水にちなむ名前がつく土地は、
こうした地域は、たとえば江戸時代まで水田だったり沼だったり、一面のレンコン畑だったりしたのを埋め立てたという可能性がありますから、良く調べてみることです。
家を建てるときに一番大切なこと 森下誉樹著 ダイヤモンド社 p220
地盤が悪いのでよく揺れて、家がゆがむのです。そのほかにも、家を建てようとしたら、地盤補強に高額な費用がかかることも。
ただ、磯田さんはもっと突っ込んだことを指摘しています。
「塩入」「塩入田」「蛇落」の歴史的背景
「塩入」「塩入田」という名前の背景はコチラ。
江戸時代、津波高潮の被害を塩入と呼んだ。津波被害が繰り返される場所が、塩入もしくは塩入田とよばれているのを何ヵ所も見た。
天災から日本史を読みなおす 磯田道史著 中公新書 p185
田んぼに塩が入ると、稲が育たなくなります。それは命にかかわること。だから、昔の人は特にそう呼んだのかもしれません。
高潮被害は大変ですよ。
そういう所に家を建てるときは、考えた方がよさそうです。
「蛇楽」という名前の由来はコチラ。
前近代には土砂崩れは「蛇崩れ」「蛇楽」などといい、大蛇の出現になぞらえられた。
天災から日本史を読みなおす 磯田道史著 中公新書 p93
つまり、「蛇楽」という土地では、土砂崩れが起きていた可能性があるのです。
「梅田」は「埋田」
JR大阪駅周辺を「梅田」と呼びます。「昔は梅の木が植えられて、きれいな所だったのかなぁ」と思ったのですが、これは大間違い。
「梅田」は「埋田」なのです。
写真からは水抜き井戸も確認できるそうです。これは明治初期の写真。あの高層ビル群は、地震がきたらどうなるのだろう…。
「おしゃれ」「近代的」など、外観にとらわれず、冷静に考える必要があります。
神社の場所、名前をチェック
神社の名前、場所、鳥居の位置には、重要な意味があります。
「このあたりで津波で流された神社は三つだけ」
磯田さんは2013年の春、南三陸町で調査を行いました。
「……神社が水につかったかどうかの古記録が手掛かりになるので、今回の震災で南三陸町の神社がどうなったか聞いて歩いています。神社の手前でギリギリ津波が止まったところが多い気がしますが」。すると、その父親は訥々といった。「このあたりで津波で流された神社は三つだけときいています」。
天災から日本史を読みなおす 磯田道史著 中公新書 p184
鳥居の前で津波が止まった、ご神体の前で津波が止まった、という話を聞いたそうです。
つまり、昔の人は「大きな地震が来たら津波が来る。あの鳥居まで行けば、命は助かる」と目印にしていたのでは?というのです。
「子孫がつらい目に遭わないように」と、先人が作ってくれたものを、私たちは生かさなけばいけません。
石碑に刻まれている文字は?
お寺、神社の敷地内にある石碑。この文言にも注意しましょう。
2014年8月、広島市安佐南区八木などで大規模な土砂崩れが起きました。
この八木村の土地台帳「地ぶり帳」(1762年[宝暦12年])をみると、上楽寺(上楽地)という字がある。そういう名前の寺があるからだが、気になるのはこの地にある観音堂が「蛇楽地観音菩薩堂とよばれ、さらに、近所に「蛇王池大蛇霊発菩薩心妙塔」と刻まれた碑が立っていることだ。
天災から日本史を読みなおす 磯田道史著 中公新書 p94
石碑を見ると、「山崩れが収まりますように」という願いを感じます。お寺の名前は変えられても、石碑までは変えるのは大変ですから。引っ越す時には、こういうことも考慮に入れた方がいいと思いますよ。
昔話からも学べる
また、昔話からも学ぶことが多いのです。地元では有名な話でも、引っ越してくる人は疎い事もありますから。
物部守屋が仏像を捨てたのは「難波の堀江」
飛鳥時代、物部守屋が蘇我氏が作った仏像を壊して捨てたのが「難波の堀江」。
つまり、難波のあたりまで海だったのですよ。今では梅田同様、高層ビル群が立ち並んでいますけどね。
一寸法師で老夫婦が参った「住吉大社」の神事
一寸法師で、老夫婦が「どうか子どもを授かりますように」と祈願したのは「住吉大社」。
ここには、神輿を海水で洗う神事があります。
昔々、ここら辺まで海だった、ということではないでしょうか。
それとは別に、「この老夫婦が当時40歳だった」というのにも驚かされます。
引っ越し、就職、進学に迷ったら
引っ越し、就職、進学先の地名が気になるのなら、後悔しないように、よくよく考えた方が良いです。なぜなら、南海トラフ地震は確実に起きるからです。
磯田さんによると
①南海トラフの地震は約100年の周期で発生。
②同時もしくは数年内に遠州灘から四国沖まで連動するのが普通である。
③古文書の記録によれば90年間より短い周期で2回おきたことは歴史上確認できない。
④歴史記録のしっかりしている南北朝時代以降で観察すると150年の間におきなかったことは一度もない。
天災から日本史を読みなおす 磯田道史著 中公新書 p78
けれども、記録から抜け落ちている地震もあるかもしれません。「例外があるかも」と考えながら、就職、特に引っ越しの参考にすることをおすすめします。
南海トラフのほかにも、「富士山噴火」について詳しく書かれています。昔の人は目を傷めたので「ゴーグルが飛ぶように売れる」(p57)と磯田さんは予言しています。ぜひ、防災の参考にしてください。
コメント