スマホやパソコンに流れる「広告」。これ、見ていても、見ていなくても、頭の中に残るんです。そして、実際モノを買う時、その影響を受けているんです。
今回ご紹介する本は、ザックリ言うとそんな内容。すべてデータに基づいて、紹介されています。
著者のマット・ジョンソンさんは脳科学者。同じ商品でも高い方を買う時、脳がどう動いているのか、考えていました。
もう一人の著者のプリンス・ギューマンさんはマーケター。科学的に消費者心理をつかみ、売り込むのが仕事です。
この二人が出会い、この本が生まれました。
なので、「企業はこんなことを!」ハッとすることが山盛り。「消費者には、全部読んでもらいたい」というのが本音ですが、とても大切な所だけ、ココでご紹介します。
スクロール、クリック、顔認証には価値がある
毎日スマホをスクロール、タップしていますよね。それで、こんなことが分かるのです……。
妊娠が分かる
企業は、購入行動の変化だけで、妊娠を把握できます。
ちなみに、これは2011年の実話。妊娠が発覚した女子高生は、妊娠に関係する検索、購買を一切していません。
- 無香料のローション
- 少々珍しい野菜や果物
- 妊婦向けではない、普通のビタミン剤
の購入が増えただけ。たったそれだけで、企業は高度なアルゴリズムから、妊娠を察知。哺乳瓶やおむつのクーポンを自動的に送ったのです。
それを受け取った父親が、このディスカウントストアに文句を言ったところ、妊娠が発覚。
今は、アルゴリズムはもっと洗練され、扱うデータ量も増えています。今後どうなるのか……本当に怖いです。
無意識に操られる
Facebookで、内部告発が相次いでいます。
Facebookは実名なので、商品価値が高いんですよ。書き込み、「いいね!」、スクロールから、こんなことが分かります。
- 個人情報
- 過去の購入履歴
- 性格のタイプ
性格のタイプから、広告の種類を選びます。そして、個別に最適な広告を表示するのです。これは、2016年のアメリカ大統領選で、トランプ陣営が実際にとった戦略。
選挙コンサルティング会社のケンブリッジが、Facebook上で簡単なアンケートを行いました。その回答から、8700万人分の
- 「いいね!」をしたもの
- 書き込んだコメント
- アップロードした写真
こんな内容を含むすべての情報を、合法的に収集したのです。
ケンブリッジは予測解析を行い、そのデータから各回答者のOCEANにもとづく性格特性を導き出した、そしてそれは、各人に適した選挙広告を作成するために使われた。
「欲しい!」はこうしてつくられる マット・ジョンソン プリンス・ギューマン著 白揚社 p351
この選挙、トランプさんが勝ちました。この広告の影響力がどう影響したか、正確に測ることはできません。ただ、「近い将来、これが普通になる」と、覚悟しておく必要はありますよ。
既に、ネット上の広告は、すべてオーダーメイド。個別に分析、コントロールされているのです。
無意識って、怖い
企業が駆使するアルゴリズム、興味ありますよね。この本では、脳が無意識に影響を受けるパターンが詳しく説明されています。
私たちはメニューを食べている
視覚>味覚 つまり、味は見た目で変わるのです。
目隠しして味わうと、見分けがつきません。
以前、こんなCMがあったの、覚えていませんか?
どちらか分からない状態で、ペプシとコカ・コーラを飲んでもらうキャンペーンです。
コーラのブランドが分かった状態で飲んだ場合、80%の人がコークを好み、ペプシの方がいいという人はわずか20%だった。ところが、ブランド名を隠した状態で飲み比べをすると、ペプシを美味しいと答えた人が53%に増え、コークと答えた人は47%に減った!
「欲しい!」はこうしてつくられる マット・ジョンソン プリンス・ギューマン著 白揚社 p32
味は、見た目でカンタンに変わってしまうのです。
良いイメージが植え付けられる
これは、マクドナルドが有名です。
非営利団体ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズは、ファストフードブランドのマクドナルドから法的に独立した存在で、子供の福利の向上を公式なミッションとする。だが、マクドナルドから多大な支援を公然と受けていて、その主な活動の一つには、フライドポテトやハンバーガー、それにもちろん、ピエロ姿のドナルド・マクドナルドの着ぐるみを着た社員が小学校や中学校を訪れて(皮肉にも)健全な食生活の推進というメッセージ広めることも含まれている。つまり、ドナルド・マクドナルドという非営利団体をトロイの木馬にした活動を通じて、マクドナルドは子供の心にブランドに対する好意的な記録を植え付けているのだ。
「欲しい!」はこうしてつくられる マット・ジョンソン プリンス・ギューマン著 白揚社 p83
お子さんの誕生日をマクドナルドで!というのも、こういう理由からです。
一生記憶に残りますよね。さらに、SNSで「よかったよ!」と拡散してくれます。口コミは広告より信じてもらえますから、企業にとっては願ったりかなったり。
ここら辺の話は、「ファストフードが世界を食いつくす」が詳しいです。
この本には、こんな内容が書いてあります。
- 子どもに良い印象を植え付ける方法
- ファストフード店の食材のひどさ
- 安い労働力を調達する方法
- 企業がお金のことしか考えていない数々の事例
ここでも、「無意識に良いイメージを植え付け、一生マクドナルドに通ってもらうしくみ」が紹介されています。
匂いはときに、食べ物の風味の実に90%までを決めることがある。
ファストフードが世界を食いつくす エリック・シュローサー著 草思社 p168
そして、香りをかぐと、昔の記憶がよみがえることも。
匂いを嗅いだとたん、長く忘れ去っていた瞬間がよみがえる経験は誰にもあるだろう。子どものころに親しんだ食べ物の匂いは、人の心に一生消えない後を刻み付けるらしく、大人になってもよくそこへ戻っていく。ときには、なぜだか本人にもわからない。
ファストフードが世界を食いつくす エリック・シュローサー著 草思社 p169
看板の色、お店の立地、包装用紙、セットメニュー、クーポンの種類、タイミング……。すべて、綿密な戦略がとられています。
企業は、ここまでやっている
毎日、スマホやパソコンを操作していますよね。
- どのサイトを何分見たか
- ネットサーフィンの経路
- 朝と夜とで見るサイトの違い
- 一括払いか、分割払いか
こんなことも、貴重な個人情報です。これを、年単位で解析すれば、
- 連休には毎年海外旅行に行く
- 子どもが中学生になる
- そろそろ外見が気になる年頃
こんなことを把握、適切なタイミングで広告を張ったり、クーポンを提示できるのです。そして、「あらっ、これはいいわね」とクリックしたら、アルゴリズムの精度が一層増します。
そして、毎年適切な情報が提示され、アルゴリズムが強化され……。これって、自分の意思で買い物をしていますか?
これ、現在の話ですよ。私たちの味覚、記憶、購買行動は、企業がコントロールできるのです。
法規制より、自分で守る
この手の購買行動は、たとえ無意識でも、最終的に自分で判断しています。だから、法で取り締まるのが大変難しいのですよね。
海外の法規制
ただ、問題意識を持つ国が出てきましたよ。EUでは「デジタル市場法」というのが制定されました。
以前からEUは「課金手数料が競争をゆがめている」と、GAFAに制裁金を課していました。
大手が高度なデジタル技術で消費者をコントロールすると、情報を使えない後発のサービスが育ちません。これは消費者にとっても「商品が割高になる」など、悪影響がありますから、法規制は歓迎すべきことです。
ただ、GAFAは「我々が多額の投資をしてきた知的財産への課金を禁じるものだ」と反発しています。
日本の法規制
2021年、日本では「デジタルプラットフォーム取引透明化法」というのができました。
ただこれ、今でもファックスで書類をやり取りしている国会議員が審議、決裁した法律ですよ。
この法律、内容をよく読むと、
具体的な禁止行為を事前に定めておらず、国内でも利用者の多い検索サービスやSNS、動画配信サービスなどは対象に入っていない。罰金も最大100万円にとどまる。
朝日新聞 ITビジネス規範へ一歩 EU法制定、米大手は反発も 2022/3/27引用
GAFAにとっての100万円って……。やっぱり、こんな残念な法律なのです。
自分の情報は、自分で守る
こういう、消費者がよく分からない新技術は、法規制がおろそかになります。だから、消費者が勉強して、自分で自分を守るのが大切なのです。
- タダより高いモノはない
- 広告を出すには、お金がかかる
- カンタン便利には裏がある
現代は、短期的には得をしても、長い目で見ると「企業の食い物にされる」しくみがあふれていることを自覚しましょう。
たとえば、「ゲノム編集のトマト」。ものすごい高額の特許料を払っても、なぜ無料で配るのでしょうか。それは、このしくみがビジネスモデルだからです。
パイオニアエコサイエンス/サナテックシード社 Gene Edited “Sicilian Rouge High Gaba”Tomato Marketing Approach&Consumer Patnel Reception in Japan より 2023/8/22引用
そして、ロシアによるウクライナ侵攻。ここにも、いろんな影響が隠れています。人々を分断し、お互いに不信感を持つと、金儲けできる人がいるのですよ。
『「政府対政府」、あるいは「媒体対媒体」の会話ではなく、「個人同士・市民同士」でつながろう』との呼びかけに、拍手が起こりました。
そしてどんな時も、一番の被害者は「市民」です。
この本の最後にある文章を引用します。
ここまで読んだみなさんは、見えていなかったものを見る力を手に入れた。これからは、見えていなくても見えているかのような反応を取れるはずだ。目に見えない心理的な反応の癖を認識し、脳がブランドを前にした時にどうなるかを予測できるようにもなった。また、人間の心理には、快と不快、論理と感情、知覚と現実という大いなる矛盾が潜み、人は危険と安心のどちらにも引きつけられる生き物だと分かった。さらには、神経科学の観点からの記憶、意思決定、共感、つながり、ストーリー、サブリミナル効果、注意、体験とはどういうものかを、消費主義という文脈から理解した。
・・・・・・
本書を読んだあなたはもう、乗客ではなくパイロットだ。思いのままに消費の世界で舵を取っていける。おめでとう!これからは、どこへ行くのもあなたしだいだ。
「欲しい!」はこうしてつくられる マット・ジョンソン プリンス・ギューマン著 白揚社 p366
これからの時代を生き抜くために、一読をおすすめします。
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