「ビジョナリーカンパニー」という本があります。
私が持っているのは1~4巻、特別編、弾み車の法則、の6冊。今は「ゼロ」というのがあるそうです。
内容をザックリ説明すると、「なぜこの会社はずーっと栄えているのか?」というのを、色々説明している本です。
逆に3巻は「なぜこの会社は落ちぶれたのか?」というのを、社内事情を織り交ぜて、詳しく説明しています。読んでいて気分が落ち込むぐらい、いろんな方向から詳細に分析していますよ。興味のある方は読んでみてください。
この本は株価やランキングをもとに「栄えている」を判断します。なので、「3Mはスゴイ」「サム・ウォルトンは偉大だ」という内容も。
今では「3Mは有機フッ素化合物で環境汚染」、「ウォルマートは地域を破壊する」と叩かれていますけどね。
そんなビジョナリーカンパニーですが、「組織作りの考え」「士気を高める手法」には共感が持てます。これを家庭、気候危機に応用するといいのでは?と思うのですよ。
ここでは、そんな考え、手法をご紹介します。
もちろん、資産運用にも応用できますよ。考え、手法を知って、株を買う時の指標にしてください。
組織の原動力は「大胆な目標(BHAG)」
「大きな目標」は「組織や人の原動力」になります。フィギュアスケートの羽生結弦選手が「北京五輪でクワッドアクセルを飛ぶ」ことを目標にしたのが好例ですよね。
大きな目標は、周囲を鼓舞し、本人のやる気を湧き立たせます。
ビジョナリーカンパニーでは、これを「BHAG(ビーハグ:Big Hairy Audacious Goals)」と呼んでいますよ。
ただBHAGには、こんな条件があるんです。
明確で説得力のある目標
具体的には、こういうことです。
BHAGは人々の意欲を引き出す。人々の心に訴え、心を動かす。具体的で、わくわくさせられ、焦点が絞られている。だれでもすぐに理解でき、くどくど説明する必要はない。
ビジョナリーカンパニー ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著 日経BP出版センター p155
選挙公約でもありますよね。
- 郵政民営化
- 自民党をぶっ壊す
これも「BHAGの一例」です。
不退転の決意とリスク
羽生結弦選手を例に説明します。
羽生選手は北京五輪で3連覇がかかっていました。そして、クワッドアクセルを飛ばなくても「金メダルを取る実力」がありました。
それなのに、「世界初のクワッドアクセルを飛ぶ」不退転の決意をしたのです。
挑戦した結果、転倒すれば金メダルは遠のきます。それを十分承知の上での決断。世界中のファンが理解、共感しました。
合理性を超えた自信
クワッドアクセルは世界大会で誰も成功させていない、前人未到の技です。それを3連覇がかかる五輪という大舞台で成功させる、という決意は想像を絶する重圧でしょう。
この大きな決意は、はた目から見ると合理性を超えています。
BHAGは社内から見たときより、社外から見たときのほうが、はるかに大胆にみえる。ビジョナリー・カンパニーは、いくら大胆だと言っても、神々を恐れぬほどではないと考えている。掲げた目標を達成できないとは、まったく考えてもいないのだ。
ビジョナリーカンパニー ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著 日経BP出版センター p173
羽生選手も「飛べない」とは、考えなかったでしょうね。
「BHAGの後」が大切
企業の場合、イケイケで会社を引っ張っていた社長が「BHAG」を掲げ、好調を維持していたとしても、
- 社長が引退
- BHAGを達成
こんなことをきっかけに、組織が目標を失い、士気が下がってしまうことがあります。
これを防ぐために大切なのが「基本理念を維持し、進歩を促す」ことなのです。どういうことなのか、具体的に説明します。
変えるべきものは?
進歩をするためにはまず、「変えるべきもの」と「維持すべきもの」を分ける必要があります。
変えるべきものとは、BHAG。特に、達成してしまう前に、あたらしいBHAGを用意する必要があります。でないと、満足してしまう可能性がありますからね。
まもなく引退する経営者には、この教訓をしっかりとつかむように勧めたい。自分の会社はBHAGに真剣に取り組んでいて、自分が引退した後も、勢いが続くようになっているだろうか。そして、それ以上に重要な点として、自社には、将来にわたって大胆な新目標を次々に設定していく能力があるだろうか。
ビジョナリーカンパニー ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著 日経BP出版センター p177
気候危機だったら、「世界中の石炭火力発電所を止める」がBHAG。達成されそうになったら、「火力発電所を止める」を、新しいBHAGにする、とか。
資産運用なら、「10年間で貯蓄1千万円」をBHAGにして、達成されそうなら「次の10年で5千万に増やす」を、新しいBHAGにする、とか。
今までの流れを詳しく分析して、「良い点」「悪い点」を洗い出し、良い点を積み重ねつつ、新しい事に挑戦し……というのを延々と繰り返し、新しい「BHAG」を掲げ続けます。
維持すべきものは?
変え続ける「BHAG」に対し、維持すべきものは「企業理念(ミッション)」です。
私たちのミッション
ウォルト・ディズニー・カンパニーのミッションは、私たちを世界最高峰のエンターテイメント企業たらしめている象徴的なブランド、創造的な精神、革新的なテクノロジーを通じて、他に類を見ないストーリーテリングの力で、世界中の人々にエンターテイメント、情報、インスピレーションをお届けすることです。
ディズニーHP 企業情報より 2022/2/18 引用
このミッションを叩き込むために、「ディズニー・トラディションズ」と呼ばれる研修があるそうで。
これが企業の軸になる「企業理念」。ココをしっかりさせないとダメなのです。
気候危機だと、「子孫に安全な地球を手渡す」のがミッションではないでしょうか。
資産運用なら、「人として安全な生活を維持する」「お金で、生きるための自由を手に入れる」あたりがミッションになります。
つまり
- 企業理念を絶対に変えない
- BHAGを見つけ、達成する前に変化させる
この2つが、発展のコツです。
その二つの見極めが大切
そして、最も大切なのが、「変えるべきもの」と「維持すべきもの」を「見分ける賢さ」。
「維持すべきもの」を、ビジョナリーカンパニーでは「時を告げるのではなく、時計を作る(p35)」と言っています。
ビル・ヒューレットとデーブ・パッカードの究極の作品は、音響用オシロスコープでも電卓でもない。ヒューレッド・パッカード社と、HPウエイである。
ビジョナリーカンパニー ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著 日経BP出版センター p49
つまり、HPでは
- 変えるべきもの:製品
- 維持すべきもの:方針と、それを実行する手段(会社)
となります。
たとえば、気候危機に際し、「石炭火力発電所を全廃する」をミッションにしてしまうと、「石油や天然ガスなら良いのでは?」「原子力だったら最高!」という事になりかねません。
「変えるべきもの」と「維持すべきもの」を見間違えてはいけないのです。
成功の法則は「弾み車の良い循環」
「変えるべきもの」と「維持すべきもの」が決まったら、その運用方法を考えます。ビジョナリーカンパニーでは、それを「弾み車」にたとえています。
そして、その弾み車が良い循環をするためには、6つの条件が整う必要があります。
それを詳しく説明しますね。
第5水準のリーダー
リーダーの判別基準は
万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらある。個人としての謙虚さと、職業人としての意志の強さという一見矛盾した組み合わせを特徴としている。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p18
ワンマン社長では、その人が引退したら後が続きません。ぐいぐい引っ張られ続けても、社員が疲れてしまいます。
第5水準の指導者は、自尊心の対象を自分自身にではなく、偉大な企業を作るという大きな目標に向けている。我や欲がないのではない。それどころか、信じがたいほど大きな野心を持っているのだが、その野心は何よりも組織に向けられていて、自分自身には向けられていない。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p33
こういう社長の下なら、のびのびと働けそうです。
適材をバスに乗せるのが最初
会社の方針を決めてから、人材を探すのではありません。偉大な企業への飛躍をもたらした経営者は
まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、その後にどこに向かうべきかを決めている。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p66
気に入った人だけが同乗者なら、バスの行き先を変更するのはカンタンです。必要以上に管理、鼓舞する必要もありません。
だから、まず適切な人を集め、それからどこに向かうか決めるのがコツなのです。
ストックデールの逆説
これは厳しい現実を受け入れつつ、「最後には必ず勝つ」と信じ切ること。
ベトナム戦争に関する比喩なので、日本人には全くなじみがありませんよね(詳しくはこちらをご覧ください:ストックデールの逆説とは)。
ストックデールの逆説
どれほどの困難にぶつかっても、最後にはかならず勝つという確信を失ってはならない。
そして同時に
それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視しなければならない。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p137
会社経営、家庭であっても、荒波に放り込まれる時があります。どんな時も現実を直視して、希望を失わないことが大切なのです。
針ねずみの概念
これは、「針鼠と狐」という随筆からの比喩です。
狐は色んなことを知っていて、上手に狩りを行います。しかし、針ねずみには「丸まる」という防御しかありません。
狐型の人たちはいくつもの目標を同時に追求し、複雑な世界を複雑なものとして理解する。「力を分散させ、いくつもの動きを起こしており」、全体的な概念や統一のとれたビジョンに考えをまとめていこうとはしない。これに対して針鼠型の人たちは、複雑な世界をひとつの系統だった考え、基本原理、基本概念によって単純化し、これですべてをまとめ、すべての行動を決定している。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p144
フロイトは無意識の世界に、ダーウィンは自然選択に、マルクスは階級闘争に、アインシュタインは相対性原理に
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p145
複雑な世界について考え抜き、単純化させています。「複雑なことも、本質は単純」という事を知っているのですね。
人ではなく、システムを管理する
これはとても大切です。
適切な人をバスに乗せているのに、その人を管理するのは本末転倒。仕事では、人を管理するのではありません。システムを管理するのです。
偉大な実績に跳躍した企業は、はっきりした制約のある一貫したシステムを構築しているが、同時に、このシステムの枠組みの中で、従業員に自由と責任を与えている。みずから規律を守るので管理の必要のない人たちを雇い、人間ではなく、システムを管理している。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p200
業務を切り刻み単純化し、1つひとつに非正規社員を割り当て、正社員に管理させる。こうやって業務を効率化する会社が多いですよね。
これも1つのシステムですが、人による人の管理で成り立っています。非正規社員に「業務に誇りを持て」といっても、無理な話。こういう会社が飛躍的に業績を上げられるはずがないのです。
新技術にふりまわされない
新技術に夢中になって、本業がおろそかになってはいけません。
技術の進歩による議場環境の変化は決して新しい事ではない。だから、ほんとうに問題になるのは「技術はどのような役割を果たすか」ではない。「偉大さへの跳躍を遂げた企業が技術について、通常とは違った考え方をしているのはどの部分か」である。
ビジョナリーカンパニー2 ジェームズ・C・コリンズ著 日経BP社 p237
たとえば、「ゲノム編集」という新技術があります。これは、使い方によってはのび太が使うひみつ道具になってしまいます。
ゲノム編集動植物がこんなに流通しているのは、日本だけ。あの、アメリカでさえも大豆油があるだけです。そして、その油を売っている会社も、株価が1ドル台に下落。
これを見たら、「ゲノム編集は今じゃない」と思いますよね。けれども飛びつく国、企業、研究者がいるのですよ……。日本でコッテコテにいじって、どんなものかわかったら、外国が追随するのかもしれませんよ。うちらはモルモットですか?
家電製品やアプリ、ソフトもそうですよね。最初は完成されていないから、不都合が出切ってから導入するのが賢い方法。飛躍的に発展する企業は、まっさらの新技術には飛びつかないのですよ……。
自分に応用してみよう
こういうことを知ったら、色々感じますよね。
- うちの会社はどうなんだ?
- 我が家はどうなんだ?
- コロナの新薬、ワクチンってどうなんだ?
色んなことに、この考えを応用させてください。飛躍的に発展した会社は、売り上げや株価が上がったのも事実ですが、求心力が上昇した会社でもあるのです。
私は自分の家庭に、この考えを組み込んでいます。
私のミッションは、「家族の健康を守ること」。これが、維持すべきもの。
そのためにしているBHAGは、「無添加」「脱プラ」「非家電」生活。このブログです。この部分は、家族の健康に影響するのであれば変化させます。
ミッションが決まれば、することも決まります。ぜひ、日常生活に取り込んでください。そして、ちょっと長いのですが、1~4巻を読むことをおすすめします。
無理なら1,2巻だけでも大丈夫。人生の参考になりますよ。
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